鎌倉彫は、約800年前に中国から伝来した彫漆類(堆朱・堆黒・紅花緑葉等)の影響を受け、木彫漆塗りで禅宗寺院の仏具や調度品を唐風に仕上げたことに始まります。
室町時代には公家への進物の品として用いられ、また時代が下っても鎌倉彫を珍重する風潮は続き、桃山、江戸時代には茶道具として大いに普及しました。
明治時代に入ると、鎌倉は保養地や別荘地に一変し、それまでの寺院の仏具や茶道を中心としていた需要は生活様式や家具調度品を主体とするようになりました。
鎌倉の地が急速に発展するのは、治承4年(1180年)10月、源頼朝公がここを全国制覇の拠点に定めてからのことです。それまでにも神社や寺院はありましたが、鎌倉は相模国内の小さな漁村に過ぎませんでした。当然、伝統的文化に貧しく、造仏にしても専ら奈良・京都の仏師に頼らねばなりませんでした。
最初に仏師として奈良より招かれたのが成朝(せいちょう)で、1185年のことです。以後、12世紀から13世紀半ばにかけて鎌倉幕府のために造仏をおこなった中央仏師は6人以上に及び、この中でもっとも数多く造仏したのが東大寺などの造仏で有名な運慶です。奈良仏師の運慶が鎌倉とその周辺地域に与えた影響はきわめて強いものでした。鎌倉幕府が登用した仏師は、ほとんどみな運慶の一派である慶派仏師と言われる人たちです。
鎌倉仏師とはっきり呼べる存在がいつ誕生したのか、まだ定説はありませんが、おそらく13世紀半ば頃だと考えられています。当然、彼らが学んだのは運慶をはじめとする慶派仏師の作品でした。このことは、仏師の一派として台頭してきた三橋家と後藤家が、後生になって「運慶末流」を自称しだすことからもわかります。
鎌倉時代は、禅宗をはじめとする中国の宗教、思想、文物が多量に入ってきた時代でもあります。漆器では堆朱(ついしゅ)や堆黒(ついこく)、紅花緑葉(こうかりょくよう)の器物が輸入されました。このような時代に、良質な木材を多量に産する日本の風土が木彫漆器を生み出すことは自然のなりゆきでした。このようにして、鎌倉彫は鎌倉の仏師たちが、その技を使って禅宗寺院の仏具や調度品を作ることから始まったのです。
鎌倉彫のQ&A
Q.鎌倉彫を長く使うコツなどありますか?
A.あります。下記をご参考ください。
・乾いた柔らかい布等で、拭いてください。艶が増します。
(長年お使いで拭いても艶が出ない場合は、塗替えの時期です。)
・長時間、水につけないでください。
・水に濡れたときは乾いた布でふきとってください。
・直射日光に長時間当てないでください。(変色することがあります)
・割れやひびが入ったときは使用しないでください。
・洗剤等のご使用はつや等がなくなる原因となりますので、ご注意下さい。
Q.鎌倉彫はどのような道具で彫るのですか?
A.下の写真が彫刻刀です。
彫刻刀の種類には、小刀(こがたな)、平刀(ひらとう)、丸刀(がんとう)などがあり、図案や彫り方の違いによって数十本を使い分けます。
小刀は、主に模様の輪郭を切り込むときに使いますが、使い方によっては凹凸や細い線から刀痕(とうこん)まで付けられる万能な刀です。
平刀は、模様の際を取ったり、地(模様以外のところ)を平らにしたり、緩やかな凹凸や刀痕を付けたりするときに使います。
丸刀は、動きの強い凹凸を付けるときに使います。
Q.鎌倉彫の木地の材料と作り方はどうなっていますか?
A.材料はほとんどカツラを使っています。
木地の作りかたには
・ロクロにかけて丸く挽く挽物(ひきもの)木地(盆・皿・茶托・椀など)
・板を組み合わせて作る指物(さしもの)木地(文箱・硯箱・重箱など)
・板から削り出して作る刳物(くりもの)木地(変形の盆・皿・鉢など)
があります。
Q.鎌倉彫で使う漆はどういうものですか?
A.鎌倉彫では、生漆と透漆をうまく使い分け利用しています。
漆は、漆の木の幹につけた傷からにじみ出てくる液を少しずつ何日にもわたって採取したものです。直径15cm、高さ5m(樹齢約15年)の木から180g(牛乳ビン1本分)しか取れない貴重なものです。
漆の木から取ったままのものを生漆(きうるし)といい、これをよく練り合わせて水分を蒸発させたものを透漆(すきうるし)または黒目漆(くろめうるし)といいます。生漆は下地や艶出しに、透漆は顔料で色付けして中塗や上塗に使います。
漆は乾くと酸やアルカリなどの薬品や熱にも強い、丈夫でしかもしっとりした、艶のある美しい塗膜になります。
Q.鎌倉彫の製作工程はどうなっていますか?
A.乾口塗(ひくちぬり)を例にとって、その工程を下に図示します。
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【木地】
木材を削り、お盆などの形にします。
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【絵付】
図案を薄美濃紙に青竹(染料)で写し取り、木地を軽く湿らせた上に押しつけて図案を転写します。 |
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【彫刻】
絵付けされた線にそって、まず小刀(こがたな)でたちこみ、小刀や平刀(ひらとう)を使い模様の際を取り、さらに模様に凹凸をつけて彫り出します。最後に周囲に彫刻刀の彫り痕(刀痕)をつけて彫り上がりです。完成写真はこちらをご覧ください。 |
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【木地固め】
生漆(きうるし)を木地全面に十分にしみ込ませ、木地を安定させ下地の基礎を作ります。 |
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【蒔き下地】
塗り上がりを滑らかにするために下地を作ります。彫刻面には、生漆を塗り、木炭の粉末または砥の粉を蒔き付けます。彫刻のないところは、漆と砥の粉を混ぜ合わせた錆というものを付けます。蒔き下地はまきしたじと読みます。 |
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【中塗】
黒中漆を、彫りの谷などに漆が溜まらないように注意しながら2度塗ります。上塗前の肌作りです。 |
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【上塗】
透明度の高い透漆(すきうるし)に朱色の顔料を混ぜた上塗漆をむらのないように塗ります。 |
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【乾口とり】
塗り上がりに立体感と落ち着きを出すために、上塗漆が乾かないうちに煤玉(すすだま;かつては煤のようなものを使っていたが、現在では泥が主成分の土)またはマコモ(イネ科の植物にできる粉末)を蒔き付けます。煤玉は黒目、マコモは赤目の色合いがあります。 |
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【朱入】
朱漆を塗り、そこに朱粉(しゅのこ;朱色の顔料)を蒔く。 |
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【艶出し】
乾口とり後1~2日置き、付着したマコモを研ぎ出し、生漆を塗ってはふき取る摺漆(すりうるし)という作業を2~3回繰り返し徐々に艶を出していきます |
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【完成】
品のよい艶が出たところで、最後に磨きをかけ完成です。 |